「おしゃれな家」より「府中に合う家」。家具の町の大工が考えるリノベーションのデザイン
断熱、気密と続けてきたブログの3回目は「デザイン」の話です。
「デザインって、結局は見た目の好みでしょう?」と思われるかもしれません。でも私たちは、この地域で30年住み続ける家のデザインは、気候と土地と暮らしの変化から逆算して決まるものだと考えています。
こんにちは。広島県府中市の工務店、エムズワークスです。
今回も、中古住宅の購入やご実家のリノベーションを考えている30〜40代の共働きのご夫婦、お子さんが2人いるご家庭に向けてお話しします。
家の「かたち」は、太陽の角度で決まる
まず、デザインの起点は太陽です。
府中市の緯度は北緯34.57°。夏至の太陽は南中時に78.8°とほぼ真上から、冬至には32.0°と低い角度から差し込みます。その差は約47°。この差を使い分けるのが、この地域の家づくりの基本です。
具体的には、南面の窓の上に窓の高さの0.3〜0.45倍の庇を出すこと。掃き出し窓なら60〜90cmほどの庇で、夏の高い日差しはほぼ遮り、冬の低い日差しは部屋の奥まで届きます。
福山観測所の猛暑日は2000年ごろの約12日から2024年には39日へと3倍以上に増えました。この暑さを、エアコンの力だけでなく「日差しを入れない設計」で和らげるのが、深い軒と庇のデザインです。
西日の当たる面には外付けのブラインドや縦格子のルーバーを。東面は朝日を取り込むために軒を短く。北面は風通しと明るさのバランス。
軒の深い家、格子のある外観、土間や濡れ縁のある家。「和風だから」ではなく、この土地の太陽に合わせた結果として、自然とそういう表情になります。
霧と湿気を「軒下」でいなす
府中市は福山と三次の中間にある内陸の町で、芦田川沿いでは霧がよく出ます。夏は暑く冬は冷え込み、湿気も多い。
だからこそ、家と外の間に「軒下」「土間」「縁側」のような緩衝空間をつくるデザインが理にかなっています。雨の日でも洗濯物を干せる深い軒下、帰宅後にそのまま荷物を置ける土間、共働きのご家庭にとっては実用面でも効いてきます。
古い家にはもともとこうした空間がありました。リノベーションでは「取り壊す」のではなく「今の暮らしに合わせて使い直す」ことで、この地域らしいデザインを引き継ぐことができます。
「40坪4LDK」から「30坪でよく回る家」へ
市場調査のデータで、この25年の大きな変化がひとつあります。
かつてこの地域の標準だった「40坪・4LDK・三世代同居」の家は、いま「30坪・コンパクト・多目的」に変わりつつあります。単身・2人世帯が増え、府中市では単身高齢者世帯が全世帯の30%を超えています。
これは、お子さんが2人いるご家庭にも関係する話です。
今は子ども部屋が2つ必要でも、10年後にはお子さんが独立し、20年後には夫婦2人になる。府中市は5市の中で最も高齢化が進んだ町です。取得後30〜40年住み続けることを前提に、「あとから部屋を分けたり、つなげたりできる」「将来は1階だけで暮らせる」という可変性を最初から織り込む。私たちはこれを、間取りという名のデザインだと考えています。
エムズワークスの施工事例には、LDKの押入を撤去して広い空間に変えた家、行き止まりのない回遊キッチンを入れた実家のリノベ、築30年のガレージを住空間に変えた家があります。どれも「今の暮らし」に合わせて空間を組み替えたデザインです。
在宅勤務と、家族の距離感
共働きのご夫婦から最近増えているのが「在宅勤務のスペースが欲しい」というご要望です。
尾道や三次を中心に県外からの移住者や二拠点居住者が増え、備後地域でも「家で働く」ことが当たり前になりました。4.5畳ほどの個室を1〜2つ確保する、玄関の土間を仕事場と兼ねる、リビングの一角に集中できるカウンターをつくる。広さを足すのではなく、既存の空間を読み替えるデザインで対応できます。
防犯もデザインの一部
あまり語られませんが、この地域のデザインで見落とせないのが防犯です。
広島県の刑法犯認知件数は2021年を底に4年連続で増加し、府中市でも前年比で増えています。県全体で最も多いのが自転車盗で、その約7割が無施錠の状態での被害です。
だから、玄関まわりの照明、自転車を鍵をかけて置ける屋根付きの駐輪スペース、道路から見通しのよい玄関アプローチ。こうした「安心して暮らせる外構と玄関のデザイン」を、見た目の美しさと一緒に考えます。お子さんが自転車で通学する年齢になったときに、効いてきます。
家具の町の大工が、デザインで大切にしていること
1. 残すものと変えるものを見極める
府中市は「府中家具」の町です。大量生産の時代を経て、いまは職人による小ロット・高付加価値のものづくりへ転換しています。私たちの家づくりもまったく同じ考え方です。
古民家のリノベーションで、どうしても抜けなかった柱に丸いステップを取り付けて、猫の居場所にした事例があります。障子や梁は残し、床は無垢の杉板に張り替える。古い家だからこそ「残すもの」と「変えるもの」を一つひとつ考える。それが、府中の家のデザインだと思っています。
2. 既製品で済ませない
既製品の建材をそのまま取り付けても、古い家ではきれいに納まらないことがあります。エムズワークスは自社工場を持っているので、巾木ひとつでも現場の寸法に合わせて加工し、その家に調和する部材をつくります。
完成すると目立たない部分ほど丁寧に。「きれいに納まっていて当たり前」をつくることが、飽きのこないデザインにつながります。
3. 大工が直接、対話する
エムズワークスには営業職がいません。お打ち合わせから施工まで、大工が直接お客様の話を聞きます。
「ここはプロに任せたい」「ここは自分たちで手を加えたい」。DIYが好きなご家族と、プロが担当する部分と自分たちで育てる部分を分けてリノベーションした家もあります。家づくりに「完成」はなく、暮らしに合わせて変わっていく。それを一緒に考えられるのは、図面を描く人と現場に立つ人が同じだからです。
予算のなかで、デザインにお金をかける順番
世帯年収700万円前後のご家庭で、この地域のリノベーションは500〜1,500万円、建て替えなら建物2,200〜2,800万円が目安です。
デザインというと装飾や造作家具を思い浮かべますが、私たちがまずお金をかけていただきたいのは、庇と窓の位置、可変性のある間取り、そして無垢の床のように「毎日触れる素材」です。流行の色や形は数年で変わりますが、太陽の角度と家族の変化に合わせたデザインは、30年経っても古くなりません。
府中の暮らしに、府中の家を
エムズワークスの代表は、府中市で生まれ育った現役の大工です。
5市の中で人口減少が最も速く、空き家率が25%を超えるこの町で、私たちは既存の住宅を直し、次の世代に渡していくことを会社の使命にしています。
太陽の角度、霧の湿気、変わっていく家族のかたち、家具の町のものづくり。
こうした土地の条件を身体で知っている大工だからこそ、「どこかで見たおしゃれな家」ではなく、府中・福山・尾道の暮らしに根ざしたデザインをご提案できると考えています。
「この家、どこを残してどこを変えたらいい?」
そんな相談からで構いません。ご相談・お見積りは無料です。お電話・メール・LINEからお気軽にお問い合わせください。
出典:国立天文台「太陽の南中高度」/気象庁「過去の気象データ検索」(福山観測所)/総務省「住民基本台帳人口」2025年/広島県警察「市区町犯罪発生等状況」令和7年/国交省「住宅・土地統計調査」/福山大学「備後地区の産業集積」