「隙間」は、図面に描かれない。——城南地域で全館空調の家を建てるなら、必ず気密の話をしてください
前回、この地域で家を建てるならまず断熱から考えてほしい、というお話をしました。
今回はその続きであり、そしてもっと聞かれない話です。
気密(きみつ)。
カタログにも、モデルハウスの見学会にも、ほとんど出てきません。目にも見えません。
それでも、私たちが城南地域で狭小住宅を設計するとき、断熱と同じ、いえ、断熱より先に確認する性能です。
なぜか。この地域の市場と敷地の状況から、順を追ってお話しします。
1. 数字で見る「城南地域で家を建てる」ということ
まず、いま何が起きているか。
土地が上がり続けています。
2026年の公示地価では、東京23区の住宅地は5年連続の上昇。前年比9.0%、都心5区に限れば13.0%(港区16.6%、品川区13.9%)。私たちの対応エリアは、東京でもっとも土地が値上がりしている地域そのものです。
そして敷地は、小さくなり続けています。
品川区の住宅実態調査によれば、区内の一戸建ての敷地面積は50〜99㎡が50.8%、100㎡未満が約72%。さらに調査では「150㎡以上の敷地が100㎡未満に分割されている」状況が指摘されています。相続や売却のたびに、土地は二つに割られていく。城南地域の住宅地は、構造的に狭小化していく市場なのです。
さらに、木造で、密集しています。
同じ調査では、区内の一戸建ての83.1%が木造。品川区・目黒区には木造住宅密集地域が広がり、不燃化特区として整備が進められているエリアもあります。
この3つを重ねると、城南地域で家を建てるという行為の輪郭がはっきりします。
高い土地を、小さく買い、隣家がすぐそこにある木造密集地に、縦に建てる。
これが前提条件です。そしてこの条件下では、家の「隙間」が、他のどの地域よりも効いてきます。
2. 隣家が近い街では、「隙間」から入ってくるものが違う
郊外の広い敷地なら、多少の隙間風は「風通しがいい家」で済むかもしれません。
けれど隣家との距離が数十センチ、前面道路は生活道路、少し歩けば環状線や首都高——という敷地では、隙間から入ってくるものが変わります。
隣家の生活音や室外機の運転音、調理の匂い、道路からの排気、春の花粉、黄砂やPM2.5。そして木造密集地域では、火災時の煙も現実的なリスクです。
東京の大気環境は、長期的には改善しています。2025年度の測定結果では、PM2.5・二酸化窒素はいずれも全測定局で環境基準を達成しました。一方で光化学オキシダントは全39局で環境基準未達成、注意報は年8日。「昔よりきれいになったが、完全ではない」——これが正確な現状です。
だから問題は、空気を入れるか入れないかではありません。
どこから、どれだけ、どう浄化して入れるか。それを設計者がコントロールできているかどうかです。
そのコントロールを可能にする唯一の条件が、気密なのです。
3. 気密=C値。そして、日本の基準にはこの数字がありません
気密性能はC値(相当隙間面積・cm²/m²)という数字で表します。床面積1㎡あたり、家全体に何cm²の隙間があるかを示す値で、実際に建った家を機械で測定して初めて出る数字です。
そして、ここが決定的に重要なところです。
日本の省エネ基準には、気密性能の規定がありません。
1999年の次世代省エネ基準には気密の基準値がありましたが、その後の改正で削除され、現在の省エネ基準にも、断熱等級6・7といった上位等級にもC値の要求はありません。つまり断熱等級7の家でも、気密がスカスカである可能性がある。測定は義務ではないので、測っていない会社は数字を出せません。
「断熱等級◯」は計算で出せますが、C値は測らないと出ません。 ここに、性能をうたう家と、性能が実際にある家の分かれ目があります。
4. 気密がないと、断熱も、全館空調も成立しません
なぜそこまで言うのか。理由は3つあります。
① 隙間風は、断熱材を無効化する
どれだけ厚い断熱材を入れても、壁の中を外気が流れてしまえば効きません。セーターの上からファスナー全開のコートを羽織っているようなものです。断熱は「熱の伝わりにくさ」、気密は「空気の漏れにくさ」。別の性能であり、片方だけでは意味を持ちません。
② 壁の中で結露が起きる
気密が不十分だと、室内の湿った空気が壁の内部に侵入し、冷たい面で結露します。壁体内結露は、断熱材の性能を落とし、木材を腐らせ、カビを発生させます。外からは見えず、気づいたときには構造材が傷んでいる。木造住宅が8割を占めるこの地域で、これは看過できないリスクです。
③ 全館空調と24時間換気は、気密の上にしか成立しない
これが最大の理由です。
全館空調も、法律で義務づけられた24時間換気も、「決めた場所から空気を入れ、決めた場所から出す」という前提で設計されています。家中に隙間があれば、空気は最短距離の穴から出入りしてしまい、計画したルートを通りません。給気口のフィルターを通らずに、隣家側の壁の隙間から未浄化の空気が入る——気密のない家では、これが日常的に起きています。
フィルターは、気密があってはじめて意味を持ちます。
花粉やPM2.5を除去したいなら、まず「そこ以外から空気が入らない家」でなければならないのです。
一般に、全館空調や第一種熱交換換気を計画どおり機能させるにはC値1.0cm²/m²以下が一つの目安とされ、数値が0.5に近づくほど計画換気の精度は上がります。全館空調を採用する住宅で気密測定をしないという選択は、私たちには考えられません。
5. 3階建て狭小住宅こそ、気密が効く
もうひとつ、この地域特有の理由があります。
狭小地では、必要な床面積を確保するために3階建てになります。建物が縦に長いほど、内外の温度差によって空気が下から上へ抜けようとする力——煙突効果——が強く働きます。
1階に隙間があれば冷気が吸い込まれ、3階の隙間から暖気が逃げていく。冬に「1階だけ足元が寒い」「3階だけ暑い」という家は、断熱ではなく気密が原因であることが少なくありません。
つまり、縦に長い家ほど気密の効き目が大きい。狭小住宅を得意とする私たちが気密にこだわるのは、性能マニアだからではなく、この形の家では気密がいちばん結果に直結するからです。
そして気密が確保できれば、吹き抜けや階段室を「熱が逃げる場所」ではなく、光と視線を通す場所として設計できます。狭い敷地で広さを感じさせる設計は、この性能の上に成り立っています。
6. 共働き・子育て世帯にとっての、具体的な変化
30〜40代・お子さま2人・共働きのご家族に、気密がもたらすものを言葉にすると——
- 春に、窓を開けない選択ができる。花粉の季節も洗濯物は室内で乾きます
- 静かになる。隙間は音の通り道です。生活道路の車の音も隣家の音も明らかに小さくなります
- 光熱費が計算どおりになる。断熱の効果は、気密があってはじめて設計値どおりに現れます
- 家中の温度がそろう。3階の子ども部屋も、1階の水まわりも同じ環境で使えます
土地に予算の多くを取られるこの地域では、「見えないところ」を削りたくなります。けれど削っていいのは仕上げであって、構造と気密・断熱は、後から足せません。
7. 気密は「設計」ではなく「施工の質」——だから設計事務所が現場に立ちます
最後に、いちばんお伝えしたいことです。
断熱材の種類や厚さは図面で決められます。しかしC値は、図面には描けません。
サッシまわり、配管や配線の貫通部、基礎と土台の取り合い、間仕切りの取り付き。気密は、現場で何百カ所の納まりを丁寧に処理した結果として、はじめて数字になります。
だから私たちは、設計段階で気密ラインを図面上に明示し、防火地域の外壁構成と両立する納まりを検討したうえで、工事中に中間の気密測定を行います。中間で測るのは、この段階なら手直しができるからです。完成後に悪い数字が出ても、壁は開けられません。
規格化された商品を売る立場ではなく、設計と工事監理を一体で行う設計事務所だからこそ、この工程を組めると考えています。「制約は可能性の原点」——狭い、囲まれている、規制が厳しい。その条件を性能で解いていくのが、私たちの仕事です。
おわりに
土地が上がり、敷地が細かく割られ、隣家との距離が縮んでいく。城南地域の住宅市場は、この先もその方向に進みます。
その街で長く快適に暮らせる家をつくる鍵は、広さではなく、外と内をきちんと隔てられているかどうかです。
家づくりの会社を検討されるとき、ひとつだけ質問してみてください。
「C値は測っていますか。実測の平均値はいくつですか」
この質問に数字で即答できるかどうかで、その会社の家づくりの姿勢はかなりはっきりします。
土地がまだ決まっていない段階でのご相談も歓迎です。その敷地でどこまでの性能と間取りが成立するか、図面を描く前からお話しできます。
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